手紙の後書き

彼に向けての言葉でなく、誰かに納得させたい訳でもなく、ただの独り言。もしかすると個人的に自分を納得させるための文書かもしれない。

 

2022年12月1日、アクシア・クローネはこの文章を残して、にじさんじを離れた。

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通知欄から彼のアイコンを見たとき、どのような感情をしてたのかはもう覚えていない。

何故ならば次の瞬間に見たのは【卒業のご報告】という文字だったから。

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一瞬頭真っ白になって、詳細を見るためにスマホ画面をタップする手が震えていた。

内容をじっくり読んで、真っ先に思い浮かぶのは「なぜ?」ではなく「そっか。そうだよな。」だった。

 

卒業したという事実を受け止めたくないけど、正直彼のいない時間が一年近くになった今、言いたくはないが、もう慣れてきた。アーカイブ残してないのがやはりダメージ大きい。もう、残ってる切り抜き動画と記憶のなかの彼でしか彼のことを思い出せない。

 

卒業の理由は「会社との方向性が合わない」。本当にこの一文だけで、これ以上の説明が何も無かった。

だから「どの点で合わなかったのか」について、永遠に知ることは無いのだろう。本人の口で言わなかったなら誰から何を言おうとも正解になることはない。

それでも俺は勝手に解釈してしまう。そうでなければこの件は一生自分の中にケジメそうにないし、これから配信者を観ることもできそうにないからだ。

「会社の方針で配信者をアイドルのように扱う客層がいる限り、自分が本来にじさんじを応募したとき目指す『友人感覚でゲーム中心に誰かを楽しませる配信活動をする』ことがどうしても難しくなってしまうために卒業を選んだ」と、俺は勝手に思ってる。

 

誹謗中傷を対応するために無期限活動休止を発表したときから、ずっと「たとえ時間をかけて勝訴になり、戻ってきたとしても、本当に彼の望むような配信環境になれるのか」と思っていた。

彼が最後に上げた2つの動画でも言ったように、誹謗中傷以外に、彼は一部ファンが彼に示す態度と過激の行為を問題視している。彼本人の活動に影響を与えてしまう以外、コラボ相手にも迷惑をかけた。

 

世間に「V界隈はそういうノリが基本なのに、VTuberでありながらそれを耐えないほどメンタルが弱くて根っこから向いてない」と言われることもあった。

VTuberであれば悪ノリを耐えなければいけないデタラメな言い草は置いといて、確かに大手事務所所属のVTuberとしてデビューしたからには、あるべきものではないけど、知名度を引き換えにどうしてもこのような「厄介事」が付いてくる認識はあるべきはずだったし、ビジュアルの良いキャラ顔で配信する時点で中身を無視して外見でしか観ない人は絶対出てくる。

 

向き不向きの基準はどこにあるかはさておき、ビジュアルの良いキャラは絶対「顔(でしか見ない)ファン」が付くわけだ。普段の行いがどれだけ芸人ムーヴであろうとしても、人外でない美男美女ビジュアルを使ってる時点で、会社にとってその顔は売りのひとつだから。

武器になるもの、使わないはずがない。だって世間からVTuberへの第一印象は顔と声しかないだもの。たとえどれだけ凄いスキルを持っていようとしても、見てもらう最初のものはやはり顔だから。VTuber界隈の共通認識。

 

しかし彼にとってそれは必要なものかと言うと、そうでもない気がする。

彼の配信を観たことある人ならば分かるはずだが、高い集中力で長時間のゲーム配信、得意なものだけでなく多種多様なゲームを実況、間がないほど配信中ずっとプレイしてるゲームの行動全部言葉にする、ゲームIQ高いため初見でも何回かチャレンジしていれば上手く難関対応できるほどゲームにぐだらない、PR配信さえもちゃんと勉強してゲームの魅力を存分に引き出すようなプレイと説明をしこなす。

(ファンフィルター掛かってると言われてもいい。少なくとも自分はこれら全部こなしてる配信者まだ見つかっていない。)


「それならVTuberなんてやってないで普通のゲーム実況者をやっていけばいいじゃん」

その通りだ。彼は別にVTuberである必要はないし、彼はVTuberになることに拘るような人間でもないと俺は思ってる。

もし彼がにじさんじに入る理由はキレイな外見を売りに金を稼ぐためのであれば、活動期間中もっと積極的にそれをアピールしてきただろう(会社がビジュアルを使ってグッズを出すことは彼自身の積極性とは関係の無いことを知っていただきたい)。

彼がVTuberになったのは、彼が昔のにじさんじに憧れがあるから、にじさんじに入りVTuberとしてデビューしただけだと俺は思う(ここ大事。勝手な解釈ですぎない)。

今のにじさんじは歌も踊りもバラエティーも多方面活躍できるような人材を求めるようになっている。バーチャルタレントアカデミー(VTA)こそが、今えにからという上場企業が求めている今後のにじさんじライバーの育成機関だ。半年も経たずに3Dお披露目してるあの4人組ユニット見れば分かる。

無論彼は歌とダンスに抵抗があればCD出したり歌謡祭に出ようとはしなかっただろう。けどそれもあくまでVTuberとしてのコンテンツのひとつなだけで、それを売りにすることはないだろう。単に彼が「今のにじさんじ」向いてないだけだと、俺は思う。

 

だから彼が文章の中に書いた「自分のやりたいことと会社の方向性が合わず継続して活動することが困難だと感じた」のを読んで腑に落ちた。自分を納得させるために脳内解釈してしまったとでも言えるだろう。

ああー きっとこの会社に居ては、今後彼のやりたいことがあっても、環境自体変わらなければこのようなしがらみが永遠に付き纏って出来なくなるのだろう。

そして会社は今の方針を変えるはずがない。変わるわけが無い。

そうでもなければあんなにこの組織に憧れてオーディション何回落ちても諦めなかった人が、「会社との方向性が合わない」と自ら言うまで、このような不本意の形で卒業を選択する「羽目」になる理由、俺には思いつかない。

 

彼はにじさんじのオーディションを応募して5回も落ちて、6回目でやっと合格した人だった。

入るきっかけはにじさんじの切り抜き動画を観て、メンタル壊れかけた彼をもう一度笑わせたから「自分も彼らのように誰かを笑わせたい」「ゲームしてるときのワクワク感と面白さを伝えるために配信活動をする」スタンスで入社した。

エデン組5人のチャンネル開設日を見れば分かるが、ほかの4人が2021年3月、6月と7月なのに、彼一人だけ2020年1月だった。
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ほかのにじさんじライバーは、同期がだいたい近い時期の登録日で、デビュー直前にチャンネル開設を行う。これは何を意味するかと言うと、おそらく彼は2020年(何なら2019年末)時点で既に合格し、1年半待機させられてやっとほかの4人が揃ってデビューできたこと。

そこを遡って、彼が応募するきっかけとなる切り抜き動画はいつ頃のものか、そして彼が憧れていた「にじさんじ」はどんな方向性持っていたかを考えると、彼本人の思い描く配信スタイルと一致するわけだ。

……少なくともユニット売り路線を進もうとする2021年頃のにじさんじではないと、俺は思っている。

 

ユニット売り、アイドル・タレント・アーティスト路線で売り出すこと自体は別に悪いものではない。自分もほかのコンテンツでは普通にそれを楽しめているから、その売りについて否定したいわけじゃない。

ただそれが原因で「過激行為をするファンの助長」に繋がったのではないかと思う部分もあるわけだから、なんとも言えない気持ち。

少なくともえにからは上場前後、「夢・腐・カプ好き女性客層」中心目当てに戦略立てたのは事実だ。

 

男性ライバーユニット売り加速するようになったのが2021年であることはえにからの上場資料で分かる。今まで大々的に公式から宣伝する男性ユニット・コンビはクロノワ、咎人とヴァルツしかおらず、2021年後半から生まれたスローンズ、ろふまお、ルクシム、ノクティクス、ヴォルタを見たらそう感じざるを得ない。

最新のオリエンスとディティカ含め、今後VTAにいる男性候補生もこのような感じで男性のみユニット・コンビとしてデビューするのであろう。

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男性ライバーが特定女性ライバーとコラボしたとき、女性ライバーへの攻撃的な発言やリプライ、またSNSサイトにデタラメな噂と誹謗中傷を書き込むのは例年より酷くなっている。去年だとアクシア以外にもENのミスタとミカ、ヴォックスと霊夢、ヴァルツとラナンキュラスの4人も特に話題として挙げられる。

 

コンビ・ユニットの関係性売り(腐・百合・カプ営業)もまた問題の原因となっている。

ライバー本人が言及もしてない人の話を「同期だから」「同じユニットだから」で普通にチャットでしたり、相手の配信に鳩を飛んだり、メンバーの関係性を良くも悪くも憶測で公に呟いたり、それで相手のファンに嫌な思いをさせて、相手のファンもまた自分に嫌な思いをしてきたりして、負の連鎖に陥れる。

実際それで空中解体になってしまったコンビもいくつあったから、今もまだ弊害が存在している。

 

件の起因となるものはその特定界隈に流行りのウェブサイトだ。そこから根も葉もない噂と誹謗中傷が各所に回り、稼ぎとなるスーパーチャット機能の悪用。挙句大量の捨てアカウントで本人・同僚・公式の配信チャットに荒らしコメントを流し込む。まさにバーチャル迷惑行為、特にバーチャル配信者に効くタイプ。

現実に存在する人間に直接影響が出るリアルな迷惑行為は実害出るため直ちに対処できるものが多く、すぐに行為し出す人に罰することで、ある程度防止にも繋がる。ネットでの発言は最終的に「目に入らなければ無視できる」ため回避のすべはある。

VTuberはその真逆で、中の人がいるとはいえ、基本的に個人情報が世に出ていないためリアルの迷惑行為で物理的な影響がない代わり、活動の主戦場とも言えるネットでの迷惑行為は直接ダメージ与える上、ネットで迷惑行為は追跡が難しく、また擬似体(二次元キャラビジュアル)を用いるために相手の発言が本人に害するかの判断が難しく、直ちに対処できるものでは無いゆえ、多くの被害は泣き寝入りするしかない。

 

容認とまでは言わないが、その客層が暴走したとき会社がどう対処すべきか分からなかったのは目に見えたし、対応するまで時間がかかりすぎたゆえ、さらなる噂と誹謗中傷で引き起こして二次災害もあった。

一番問題となるものはもちろん自分の立場をわきまえない一部の過激ファンにあるに違いないが、ライバーを売り出す方針でその過激ファンを作り出した会社側も問題かと俺は思う。

過激ファンによる迷惑行為でライバーが活動休止、そして卒業したのは何も今回が初めてじゃないのにも関わらず、対応が依然疎かになっている(詳細は鈴原るるを参考)。

他社と連携を取って対策を強化する声明まで出して、実際に対処して既存ライバーにいくらの弁償額支払わせたと言われても、もうとうに手遅れた。それで去って行った人には報いなく、ただ犠牲になった者にすぎない。

こんな状況までに追い込まれて「お前の推しが運悪かった」だけで片付けるはずが無い。

 

彼がその迷惑行為に対する態度と取っていた行動について疑問となった部分もなくも無い(事の経緯を報告するまではいいが煽りラップは必要かと言われると微妙な気がする)。

もう少し上手く動けていれば今のようなことにはならなかったのではないかと思ったこともある。

ほかのライバーのように、会社の方針をとっぱらって、自分の好きなことだけをすることもできるのではないかと。

ロアさんのように籍だけ残して、色々片付けてから戻ってくることも可能ではないかと。

もちろんそれは単に自分が彼の活躍をもっと見たかったエゴにすぎない。

それでも彼はこの組織から去ることを決めた。

 

この記事書いたとき、半年後にはあんなこと起きると思いもしなかった。

もちろん、今でも記事に書いてたことは変わらずに思っていることだ。

彼を推してたことに後悔したことはない。

ただこのような形で卒業したのって、彼が自ら「にじさんじ所属VTuberとしての死」を選んだとも捉えるのではないかと。

それも、彼がいろいろ考えてからの選択なんだろうな。そうであれば俺はこの選択に尊重したい。

尊重するしかない。

 

 

未練がないと言ったら嘘になる。

「卒業」であって「引退」と言ってないので、会社と話合わせて「諦めた」という体を見せかけて後ろで色々解決してからの復帰もあるのではないかと謎の考えも湧いてきた。

そうでもしなければ別の姿で配信しているではないかという考えもあった。

何なら別の姿でもいい、声だけでもいいから。

「                  」、またお前に会いたいよ。